ザ・マミー/呪われた砂漠の女王

先日「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」と「スパイダーマン:ホームカミング」をはしごした。

「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」はユニバーサルが往年のユニバーサル・ホラーの世界観をリブートする「ダーク・ユニバース」シリーズの第1作。最近流行りのなんとかユニバースの新しいシリーズだが、「魔人ドラキュラ」や「フランケンシュタインの花嫁」がリブートされるなら観ない訳にはいかないのだ。
しかし実は僕はミイラものというのはほとんど観ていなかった。「ザ・マミー」は原題が「THE MUMMY」で、このタイトルのホラー映画としては以下のものがある。
 「ミイラ再生」(1932年) 
 「ミイラの幽霊」(1959年)
 「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」(1999年)
 「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」(2017年)
要するに「ミイラ再生」の4回目のリブートということらしい。これ以外にもミイラ映画はたくさんあるのだが、とりあえず日本でDVD化されていない英国ハマー・プロダクションの「ミイラの幽霊」以外の2本「ミイラ再生」と「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」を観てから挑んだ。そもそも「ハムナプトラ」が「ミイラ再生」のリメイクだということも知らなかったのだが、続けて観ると「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」というのは意外なくらいオリジナルに忠実はリブートなのである。地味なオリジナルをきちんと踏襲しながら盛れるだけ盛ったアクション大作に仕上げたスティーブン・ソマーズ監督の力量は大したものだと思う。さて最新のミイラ映画はどうか。
結論から言うと「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」はオリジナルの「ミイラ再生」とは全く別物である。復活するミイラが男性から女性に変わっているだけではなく、生きながら埋葬された呪われたミイラが復活する、という基本設定以外どっこも似てない。
こっから後は少しネタバレしてます。


まず舞台が違う。「ミイラ再生」も「ハムナプトラ」も舞台は当然のことながらエジプトである。ところが「ザ・マミー」にはほとんどエジプトが出てこない。ミイラが発掘されるのはなぜかイラクで、そこから舞台はすぐにイギリスに移る。エジプトは回想シーンとラストだけ。ちょっとびっくりした。
それでも途中まではけっこう面白く観た。イギリスを舞台にすることで昔のハマー・プロダクションの怪奇映画みたいな雰囲気が出ている。トム・クルーズを主人公にすることでちょっとした毒のあるユーモアの感じも出ている。殺しちゃった友人が幽霊になって出てくるのは「狼男アメリカン」オマージュかな。それなりに見せ場もある。飛行機が墜落するシーンで中が無重力になるシーンがよく撮れていて、どうやって撮ったんだ、と思ったら本当に自由落下する飛行機の中で撮ったらしい。すげえな。個人的には烏とかネズミとかの小動物が群れになって登場するシーンが好き。ネズミと言えば「ウィラード」だが、個人的には新旧2本の「ノスフェラトゥ」が思い起こされる。ミイラというのは蘇った死体、という点で吸血鬼ともゾンビとも共通点があるのだけど、吸血鬼やゾンビを思わせるシーンにもいいシーンがある。作り手に昔ながらの怪奇映画に対する愛情があることは分かる。

こういうなんとかユニバースものには秘密組織がつきものである。モンスターバースのモナークみたいなやつだ。この世界ではプロディジウムというちょっと覚えにく名前の組織だ。この組織のトップがラッセル・クロウ演じるジキル博士。たぶんこの世界にはロバート・ルイス・スティーヴンソンという作家はいなくて「ジキル博士とハイド氏」という小説もなくて、このジキル博士はダーク・ユニバースの住人なのだろうと思うのだが、ユニバーサルの「ジキル博士とハイド氏」なんてあったっけ?でまあそれはいいのだがこの組織が出てきた当たりから残念ながら映画はなぜか失速する。

うーん。なんでこうなったのかなあ。クライマックスがこんな地味な映画久しぶりに観たよ。ドラマ的にも弱いし絵的にも地味。ソフィア・ブテラ演じるアマネットというキャラクターにはそれなりに魅力があるし、いったんアマネットが地上に出てくる辺りの絵にはいいものもあるのに、最後結局イギリスの地下でこじんまりと話は収束する。ちょっとびっくるするくらいラストはあっけない。エンディングも取ってつけたようだ。

トム・クルーズ演じるニック・モートンはこれで終わりということはないだろう。今後どう関わってくるのか、気になるところだ。「フランケンシュタインの花嫁」と「透明人間」が次に控えているらしいのだが、トム、出てくるのかなあ。このシリーズは続いてくれないと困るのだ。なんといっても本命は21世紀版「魔人ドラキュラ」なのだ。それまではもってもらわないと。いろいろ不満はあるが全面的に支持するから続けてください。お願いします。

「スパイダーマン:ホームカミング」についてはまたのちほど。
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東京展覧会巡り(その2)

明けて4日は5つ回った。まず東京駅に出かけ、東京ステーションギャラリーの「アドルフ・ヴェルフリ展」に行く。兵庫県立美術館に来ていたのだけど、その時は行きそびれた。アウトサイダー・アートとかアール・ブリュットとか言われるタイプの画家。精神病院で新聞用紙に延々自分の作った物語を絵と言葉にして描き続けた。鉛筆と色鉛筆で描かれた絵は曼荼羅のようで鬼気迫るものがある。

東京ステーションギャラリーから歩いて三菱一号館美術館に移動。こちらは「オルセーのナビ派展」をやっている。意外だがナビ派の本格的な展覧会は本邦初らしい。19世紀末に象徴的で平面的な新しい絵画を目指した画家たち。僕は前からわりと興味があって、詳しいわけではないがピエール・ボナールとモーリス・ドニは好き。今回はその二人の作品も多数展示されていて、特にドニは充実していた。けっこういろんな絵柄で描く人なんだな。ボナールはまだ見足りない。他ではヴュイヤール、ヴァロットン、セリュジェ、マイヨールなどの作品がよかった。マイヨールって彫刻家にもいたなと思ったら、あのマイヨールらしい。元々絵を描いていたんだけど視力が落ちて彫刻に転向したそう。ナビ派の画家たちは浮世絵に影響を受けているので日本人にも馴染みやすい絵だと思う。色彩の繊細さとどこか謎めいた感じがいい。

今度は銀座に移動。KHギャラリー東京という画廊でやっている「金子國義×コシノヒロコ EROS2017」という二人展を見る。金子國義さんの原画見るの初めてかも。点数は多くなかったが嬉しかった。
同じ銀座のヴァニラ画廊では「古屋兎丸 『帝一の國』原画展」をやっている。決して広くない会場は若い女の子でいっぱいである。さすが兎丸先生。先程完結し、映画化もされた「帝一の國」の原画180点以上が展示されている。美麗な原稿群。なんとご本人がおられてサインにも応じられている。アウェー感半端なかったけど並びました。兎丸先生、優しかった。

最後にもう一つ、渋谷まで移動してBunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「写真家ソール・ライター展」に駆け込む。この写真家についても知らなかったんだけど、ポスターか何かで「足跡」という赤い傘と雪に覆われた路面のコントラストが見事な写真を見て、あまりのかっこよさに感動して見にいった。行ってよかった。モノクロの写真もその独特な構図が見事なのだけど、カラーは本当に素晴らしかった。斬新な構図、大胆かつ繊細な色彩、刺激になった。ちょっと驚いたのが、ソール・ライターはボナールやヴュイヤールといったナビ派の画家の影響を強く受けていたことで、ナビ派の後にこれ見れてよかった。これから見る人には「オルセーのナビ派展」とこれを続けて見ることをおすすめ。

そんなわけで二日で8つ展覧会を見た。本当は今日は本命である国立新美術館のミュシャと草間彌生を見るつもりだったのだけど、明日のイベントで出すコピー誌の文字入れを今になってするという愚挙のため断念。もう一回東京に来ないといけない。この二展は見逃すわけにはいかないのだ。

東京展覧会巡り(その1)

ゴールデンウィークは東京に来ているのである。
5月6日のコミティアと5月7日の文学フリマに参加することが主目的なのだが、せっかく東京まで来たのだから展覧会巡りをした。

5月3日は早朝に京都を出て朝のうちに東京に着いた。ホテルに荷物を預けてすぐ上野に行く。

まずは国立科学博物館の「大英自然史博物館展」へ。ロンドンには以前行ったのだが自然史博物館には確か行きそびれている。貴重な所蔵品の優品を展示しつつ、自然史博物館と博物学の歴史を概観できる展示になっている。関わった人物の紹介にけっこうスペースを割いているのも特徴。女性の博物学者を多く紹介していて興味深かった。展示品中一番感銘をうけたのはオオナマケモノの骨格標本。ナマケモノを自称しているので。オオナマケモノには指が5本あるんだな。

さてその次はお隣の国立西洋美術館の「シャセリオー展」。19世紀ロマン派のこの画家の名前を知ったのは子供のころ。うちにあった百科事典に「エステルの化粧」という絵が載っていて、その官能的な女性像にどきどきしたのを覚えている。二の腕の太さに感動した。残念ながら「エステルの化粧」はなかったけど、いくつかある官能的な女性の絵には確かに面影がある。しかし「エステルの化粧」にしても、展示してあった「アポロンとダフネ」「泉のほとりで眠るニンフ」「海から上がるウェヌス」にしても,シャセリオーの裸婦は両腕を高く上げているのが多いんだけど、ちょっと腋フェチのケがあったのではないか。高く上げた両腕の肩から腋、二の腕辺りがツボだったのは間違いないと思うんだけど。

もうだいぶ時間も押していたのだが急いで次の会場へ。東京藝術大学大学美術館の「雪村展」。実はノーマークだったのだけど、上野に来て看板見て興味を持った。「奇想の誕生」と副題が付いていては看過できないではないか。雪村は「ゆきむら」ではなく「せっそん」と読む。そう看板に書いてある。16世紀の画僧。水墨画で描かれた奇抜な人物、動物、景色。強い風が吹き木々が折れ曲がり波はまるで人の手のように招く。人物のポージングも癖があるし、龍や虎も個性的だ。猿の絵がかわいい。ずいぶん長生きをした人で晩年まで精力的に描き続けた。

大映特撮ナイト 第10夜 「怪談佐賀屋敷」

DeAGOSTINIの大映特撮映画DVDコレクションを中心に大映特撮映画を公開年代順に観る一人上映会、第10回は1953年公開の「怪談佐賀屋敷」。実は僕にとって化け猫映画初体験。いや、こんなに面白いものとは思わなかった。

鍋島家家臣諫早豊前の陰謀で殺された龍造寺家当主又一郎と自害して果てたその母親の恨みを晴らすため、飼い猫こまがスーパーパワーを使って復讐していく話。それを追う探偵役の小森半左衛門を「西遊記」他で孫悟空を演じた坂東好太郎が演じている。

化け猫の側には復讐するだけの理由があるわけなので復讐譚としても楽しめ、同時に化け猫というモンスターを退治するドラキュラ映画的側面もあって、その辺のバランスがいい。復讐される側をいかにも悪い豊前(杉山昌三九)と豊前に唆された根はいい人の鍋島丹後守(沢村国太郎)に分けることで、復讐する側、される側両方のカタルシスを用意している。ヴァン・ヘルシング的キャラクターである半左衛門も丹後守に仕えながら同時に龍造寺家に親しい人物に設定していて抜かりがない。半左衛門がわりと近代的な合理主義者であるのもいい。丹後守が怪異に怯え精神を病んでいく描写もよく描けていて、見ようによっては罪の意識に駆られた丹後守が幻覚を見ているとも取れる。

しかし何といってもこの映画の魅力は化け猫というモンスターそのものの魅力だ。化け猫は人に取り憑いてその人になりすますのだけど、身近な人物が実は化け猫である、という設定がけっこうSFホラー的。化け猫には人を操る能力もあって、操られた人間がアクロバティックな動きをするのは「エクソシスト」の悪魔に取り憑かれた少女リーガンのようだ。こっちの方がずっと早いわけだが。見世物映画としても十分面白い。化け猫女優入江たか子、というのは名前だけは知っていたけど確かにインパクトあった。髪を振り乱し口の周りを血だらけにして大立ち回りを演じる入江たか子はモンスター役者として十分に存在感がある。猫の動きを取り入れつつ、首に噛み付く描写なんかはむしろ吸血鬼的。しかもハマーの「吸血鬼ドラキュラ」より何年も前の映画なのだ。(雰囲気は戦前のおっとりした「魔人ドラキュラ」よりはハマー映画にずっと近い。)アクロバティックなシーンを演じるスタントの人が女性に見えないのはちょっといただけないが。

入江たか子主演の化け猫映画はこの後何本か続く。次回はその一本である「怪猫有馬御殿」。

大映特撮ナイト 第9夜 「大あばれ孫悟空」

大映特撮映画を公開年代順に観る一人上映会、第9回目は番外編1952年9月の「大あばれ孫悟空」。番外編なのはこれがDeAGOSTINIの大映特撮映画DVDコレクションに入っていないから。1952年4月公開の「西遊記」の続編でわずか5ヶ月後に封切られている。人気あったんだろうなあ。

孫悟空に坂東好太郎、三蔵に春本富士夫は変わらないが、猪八戒が花菱アチャコから羅門光三郎に、沙悟浄が杉狂児から伴淳三郎に変わっている。八戒が関西弁なのは変わらず。沙悟浄のキャラはだいぶ変わっている。舌をペロペロ出す演技が特徴。前作で金角大王を演じた徳川夢声がナレーション。ちなみに猪八戒役の羅門光三郎は戦前の映画で孫悟空を4回演じているそう。

金魚の化身霊感大王、女郎蜘蛛の化身青面公主、虎力大仙、鹿力大仙、羊力大仙、猿の化身狙力大仙と動物の化物が次々三蔵一行の行く手を阻む。

前回より喜劇色が濃くなっている印象。セットなどは前回よりも豪華で映像もずいぶん洗練されている。ただ個々のエピソードがやや小粒なのは否めない。危機になると観音様が助けてくれるというのもちょっと肩透かし感はある。役者陣では三蔵に横恋慕する青面公主の清川虹子がおかしい。ウィキペディアを見ると、この年清川虹子は沙悟浄役の伴淳三郎と結婚している。7年後には離婚してるけど。

音楽が色々工夫されているのもこの作品の特徴の一つだが、砂漠を一行が歩いているシーンなどで電子オルガンらしき音楽が使われている。1952年という時代を考えるとだいぶ早いのではないだろうか。


次回は「怪談佐賀屋敷」。
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