国民の映画

昔、ナチスの幹部たちを一人ずつ描いた海外ドキュメンタリーを見て、みんなそれぞれにキャラが立っていることに感心した。
ヒトラーという人物には安易な理解を拒むところがある。
それに比べるとナチスの幹部たちはまだ理解しやすい。
そして一人一人が実に個性的で、ある意味魅力的でさえあった。
中でも宣伝大臣ゲッベルズには興味を引かれた。

三谷幸喜さんがそのゲッベルズを主人公にした舞台をやるというので、観にいった。
実は再演なのだが、知らなかった。
たまたまこの間三谷さんの映画「清須会議」を観て面白かったので三谷さんのことが気になっていて、そんな時にこの「国民の映画」に出演している秋元才加さんのインタビューが京都新聞に載ったのである。
ちなみにAKB48も全然知らないので秋元才加さんのことも、名前は聞いたことある、くらいのレベル。

映画好きだったゲッベルズが、自宅に著名な映画人を招いてパーティをする。
その顛末を描く一幕ものの舞台。
ヨゼフ・ゲッベルズを小日向文世さん、映画に全く興味のない親衛隊隊長ハインリヒ・ヒムラーを段田安則さん、尊大で芸術好きなモルヒネ中毒の空軍元帥ヘルマン・ゲーリングを渡辺徹さんが演じている。
映画人は名優エミール・ヤニングスを風間杜夫さんが演じている他、映画監督レニ・リーフェンシュタール、作家のエーリヒ・ケストナーらが登場。
秋元才加さんは新人女優のエルザ・フェーゼンマイヤーという、これは架空の人物(モデルはあるそう)。
そして、これも架空の人物である優秀な執事フリッツがキーパーソンになっている。

全部で12名の人物が登場するのだが、さすがに三谷幸喜さん、それぞれのキャラクターを実に魅力的に描き分けている。
段田安則さんのヒムラーが特にいい。
ドキュメンタリーで見たヒムラーは、その悪魔的な所業と裏腹にどちらかと言うと小役人タイプの男である。
段田さんのヒムラーは、園芸が趣味で極度の猫舌で冷めたホットミルクが好きで、しかし底に冷酷さを秘めたキャラクターだ。
舞台は全体としてはコメディの味付けで、ヒムラーもすごくおかしいのだが、それでいてヒムラーと言う人物の不気味さも十分醸し出している。
渡辺徹さんのゲーリングも魅力的。
尊大だがユーモアに溢れた人物として描いている。
けっこういい奴に見える。

小日向さんのゲッベルズは、どこか劣等感を抱えながらそれを打ち消さんがために自分を大きく見せようとしているような人物。
神経質で臆病なのだが、それでいて高慢。
映画が好きで、「風と共に去りぬ」を越えるような映画を作りたいと夢想している。
そして、それを実現するための権力を彼は握っている。

理想の夫婦を演じているが実はすっかり関係の冷めている妻マグダと、新しい愛人エルザ、昔からゲッベルズと親しく交わりながら一線を引いているレニなど、女性たちの関係もスリリングに描かれている。
秋元さん、名優たちの中でかなりがんばってました。
十分存在感あった。

物語は登場人物たちそれぞれの思惑が複雑に交差しながら、笑いを織り交ぜて展開していく。
そして終盤になって、「ユダヤ人問題の最終的解決」の話がいささか唐突に出て、そこからそれぞれの決断がある。

ナチスという暗い闇にも中に分け入ってみればそこに人間的なドラマがある。
そのある意味で普通の人間たちが時代の中で巨大な悪をなす。
微視的視点の面白さで引っ張っていって、最後に俯瞰した時に見えてくる埋めようのない空虚さ。
面白うてやがて恐ろしき舞台。
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