日本の漫画映画の誕生と発展

この間テレビをつけたらたまたま『機動戦士ガンダム」、いわゆるファースト・ガンダムをやっていた。
当時はすごくよく出来ている気がしたんだけど、今見るとかなりちゃちい。
僕が子供の頃、60年代、70年代のテレビアニメはほとんど今見ると技術的にかなり拙かった。

今の子がその時代のアニメを見たら、昔はやっぱり技術も拙かったんだなあ、と思うだろう。
技術が進歩して、昔は単純で稚拙だったアニメも今は洗練された世界に誇れるクールなアニメになったと思うかもしれない。
しかし、歴史というのはそんなに単線的なものではないのである。

国立国際美術館で「日本の漫画映画の誕生と発展」という上映会をやっていたので観にいった。
3日間でAプログラムからGプログラムまで、時代順に7プログラムあったのだが、「国民の映画」と重なっていたCプログラム、Dプログラム以外の5プログラムを観た。
充実したラインアップで、しかも只だったのだ。

Aプログラム、Bプログラムは日本の漫画映画の興隆期の作品。
1917年の「なまくら侍」が最も古く、そこから1930年代までの短編作品。
さすがに技術的にも単純なのだが、今観てもなかなか楽しい。
大藤信郎賞というアニメーションの賞があるが、その大藤信郎の作品がまとまって入っていた。
ディズニーに憧れていたそうだが、作品はむしろ日本独自のスタイルを模索しているように思えた。
アニメと実写の合成というような先駆的な仕事もしている。
村田安司という作家は初めて知ったが、絵が達者で面白い。
日本の漫画映画に影響を与えた海外作品も参考作品として上映されていたのだが、エミール・コールの「ファントーシュたちの恋のさやあて」(1908年)が観れたのが嬉しかった。
昔「ファントーシュ」というアニメーション雑誌があった。
ここから取られた名前なのだ。

C、Dを飛ばしたので、次はいきなりEプログラム「1940年代:ある頂点」に。
この間の技術的な進歩がすごいのだ。
4本上映されたのだが、中でもやはり政岡憲三の「くもとちゅうりっぷ」(1943年)の完成度は素晴らしい。
しかもデジタル修復版で、音も画像もクリアなのだ。
昔一回観ているのだが、今回デジタル修復版で観て改めてこれはすごいと感心した。
素晴らしく繊細で奥行きのある画面。
滑らかな動き。
叙情とユーモア。
1943年という戦時中にこれほどのものが作られていたのは驚異的だ。

そして次がFプログラム「1940年代:戦時体制下のプロパガンダと長編の試み」。
長足の進歩を遂げた日本のアニメーションだが、戦時中はその技術はプロパガンダとして使われることになる。
Aプログラムで楽しい作品を作っていた大藤信郎もEプログラムで繊細な影絵アニメーションを作っていた荒井和五郎・飛石沖也も戦争プロパガンダ映画を作っている。

中でもEプログラムの「アリチャン」の可愛さが印象的だった瀬尾光世の二本の漫画映画「桃太郎の海鷲」、「桃太郎/海の神兵」は観ていて実に複雑な気持ちになった。
一作目の「桃太郎の海鷲」は、アメリカ兵を鬼が島の鬼に見立て、桃太郎率いる猿隊、犬隊、雉隊の奮戦をいかにも「漫画的」に描いた作品。
すごく楽しい作品なのだが、もちろん子どもたちに戦争プロパガンダを植え込むために作られた作品だ。
二本目の「桃太郎/海の神兵」はずいぶん雰囲気が違う。
74分と言う当時としては画期的な長編作品である。
物語は故郷に帰った猿や犬たちの描写から始まる。
のどかな田舎の風景の中で弟たちに飛行機乗りの魅力を語る猿たち。
動物の姿はしているが、描写はリアルで叙情的だ。
優しい兄としての兵隊の姿がそこでは描かれる。
その後、舞台は南洋に移り、兵隊たちと島民(これも動物の姿で表現されている)がいっしょに働いたり、日本語教育をしたりするところが描かれる。
これも非常にのどかで楽しい雰囲気で描かれる。
また、兵隊たちの軍隊生活もかなりディテールまで描き込まれている。
もちろん理想化され美化された日本軍のイメージだ。
この長編作品のほとんどは、戦闘シーンではなく、兵隊たちの日常の描写なのである。
しかもそれがとてもよく出来ている。
最後に鬼たちとの戦闘になるのだが、鬼(アメリカ兵)はみんなへなちょこで簡単に無条件降伏してしまう。
ここで映画は一気にリアリティを失う。

この映画が作られたのが1945年という戦争末期であることを考えると、こののどかで美しい楽天的な映画の皮肉さが際立つ。
プロパガンダという形でしか作品を作れなかった時代の、これは悲劇と言っていい。
手塚治虫が当時この映画を観て感動した、というエピソードがあっても、この映画が巨大な虚無の上に立てられた幻に過ぎないという事実は消えない。

最後のFプログラムは「1946年:敗戦後の復活」。
敗戦の翌年に日本の漫画映画は早くも復活する。
政岡憲三、大藤信郎が充実した魅力的な作品を作っている。
政岡憲三の門下生である熊川正雄の「魔法のペン」は焼け野原の東京を舞台に、新聞配達をする少年を主人公にした作品だが、この作品の中には復興した東京の幻想が描かれる。
それがよくある「昔の未来図」のような荒唐無稽なものではなく、本当に現代の東京のように見えるリアルなものなのだ。
おそらく、海外の建築雑誌等を参考にしてこのイメージを作ったのだろう。
この時代にここまで未来を現実的に思い描いていたことに驚く。

日本のアニメーションは1940年代にはかなりの高みに達していた。
「鉄腕アトム」に始まるテレビアニメはそのレベルをいったんひどく引き下げてしまうのだ。
結果としてテレビアニメという過酷な環境の中で鍛えられた日本の技術が今のアニメの隆盛につながったと言えるかもしれない。
でもその過程で失われたものも大きかったのだ。
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