ヴィオレッタ

先日実駒が友人と観てきた映画が、エヴァ・イオネスコが自分の少女時代を描いた作品だと聞いて驚愕した。
エヴァ・イオネスコ?
あのエヴァ・イオネスコ?

エヴァ・イオネスコは70年代末から80年代初頭に活躍した少女モデルだ。
特に母親であるイリナ・イオネスコによる写真集が話題になった。
(他の写真家のモデルもしていた。)
日本では当時ブームだった少女ヌード写真の一つとして紹介されたが、エヴァ・イオネスコの存在感は一種異質なものがあった。
少女を撮る、という時、多くの写真家は多かれ少なかれ自然な子供らしさを強調する傾向があったが、エヴァ・イオネスコはその中で赤いルージュを引き、大人のようにしなを作って見るものを挑発した。
人工的で退廃的なエロスを感じさせた。
決して笑顔を見せなかった。
僕も当時彼女の写真を見ているが、そのモデルが、そして娘をモデルとしてエロティックな写真を撮っていたイリナ・イオネスコがどう思っていたのか疑問に思ったものだった。

そのエヴァ・イオネスコが自ら監督して、自分の少女時代をモチーフとして描いているのである。
これは観ないわけにはいかない。
それと同時にそれを観ることに多少の気後れもあった。
当時エヴァ・イオネスコの写真を見ていた側の人間として。

この映画で描かれているのは三代の女性たちの物語だ。
ばあばと呼ばれる保守的な祖母、奔放でエキセントリックな芸術家志向の母親のアンナ、そしてエヴァの分身であるヴィオレッタである。
男親は登場しない。
しかし物語の中で、その男親の果たした暗い過去はほのめかされる。

アンナは凡人を嫌い、何者かになろうとしている。
もうすでに若くはないが、世間に埋没することを拒絶し、自分に才能が有ることを信じている。
ばあばと娘のいる家にはほとんど寄り付かない。
そのアンナが男友達から譲り受けたカメラで写真を撮り始める。
その被写体として娘のヴィオレッタに目をつけるのだ。

まず保守的で信心深いばあばと、その母親が辿った道を断固拒否するアンナの間の葛藤があったはずである。
暴力的に男に人生を決められたばあばに対する嫌悪とそうはなりたくないのに同じ道を辿らされたことに対する怒り。
そこからなんとしても逃れたい、というアンナの強い意志が彼女のエキセントリックな性格を形作っていく。
ヴィオレッタはむしろおばあちゃん子なのだが、母親からモデルをするよう言われた時に、ある種の誇らしさを感じる。
カメラの前で母親に言われるままにポーズを取り、モデルになった写真が評判となり、芸術家のサークルの中にも入っていく。
そのきらびやかだが空疎な世界でちやほやされる自分と、小学校での当たり前の子どもとしての自分はどんどん乖離していく。
次第に母親の強烈なエゴに支配され、男たちの性的な視線にさらされることに耐えられなくなったヴィオレッタは「普通の子ども」になりたい、と言って母親を拒絶する。

アンナはヴィオレッタを愛していると信じている。
ヴィオレッタはアンナの所有物で、分身でもある。
アンナにとってはヴィオレッタのあり方は自分がそうありたかった存在だったかもしれない。
しかしアンナはヴィオレッタの気持ちを理解できない。
時として、アンナとヴィオレッタの関係が逆転しているように見えることがある。
ヴィオレッタが母親でアンナが子どものように見えるのだ。

しかしヴィオレッタにとってあまりに負担の大きいこの関係は破綻せざるをえない。
ヴィオレッタが母親から逃げて走っていく映像でこの映画は終わる。

あの写真集の裏にこのようなドラマがあったのだということは、ある意味では予想されたことではあったが、それをエヴァ・イオネスコは適度に距離を取りながら、そして皮肉なことに母親譲りの美意識を持って、美しく描いている。
実際この映画は美しい。
ヴィオレッタを演じた10才のアナトリア・ヴァルトロメイは当時のエヴァ・イオネスコ以上に美しく、この難役を文字通り体当たりで演じている。
アンナ役のイザベル・ユベールも圧倒的な存在感がある。
美術も素晴らしい。
映画の中にイリナ・イオネスコの美学が再現されている。

この映画を見て、男であり、彼女の写真を享受した側の人間としてどう反応するのが正解なのか、すぐには答えが出せそうにない。
この映画のアナトリア・ヴァルトロメイの美しさは見紛いようがない.
しかし彼女を「新星ロリータ」(パンフレット)と持ち上げることは問題の再生産ではないだろうか。
彼女が映画界で注目され、様々なオファーが来ることは間違いないだろうし、僕としても彼女の次回作が観てみたい。
しかしアナトリア・ヴァロトロメイが役者として充実した仕事をすると同時に、充実した子ども時代を過ごせるよう願わずにはいられないのだ。
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