喰いついたら放すな

またまただいぶ間が空いたけど、で、それにはそれなり理由があるのだけど、それは流して今日から突然また通常運転です。

先月末ジョン・ギラーミン監督の訃報が届いた。
ジョン・ギラーミンといえば、ぼくらの世代にとっては「タワーリング・インフェルノ」とか76年版の「キングコング」とかのやや大味な大作映画の監督、というイメージで、最近は名前もあまり聞かなかった。
訃報で1925年生まれの89歳だと知ってちょっと驚いた。
もう少し若い監督だと思っていた。

そんなわけで今月はギラーミン追悼でギラーミンの映画のDVDを毎週一本ずつ観ます。
今日観たのは「喰いついたら放すな」(原題:NEVER LET GO)という1960年のイギリス映画。モノクロ。
ギラーミン、実はロンドン生まれのイギリス人である。
これも今回初めて知った。

主人公はうだつの上がらない化粧品会社のセールスマン、カミングズ(リチャード・トッド)で、その男が買ったばかりの車を盗まれるところから物語は始まる。
盗むのはチンピラの若者で、その親玉メドウズをピーター・セラーズが演じている。
この映画のピーター・セラーズはコメディ色一切なしのキレッキレの悪党。

悪者に脅され、捜査の邪魔をするなと警察に怒られ、会社はクビになり、奥さんにもあいそをつかれながら、カミングズは自分の盗まれた車に執着して危険を顧みず悪党に喰らいついていく。
まさにタイトル通りの映画だ。
カミングズは勇敢な人間でも正義感の強い人間でもない。
自分の不甲斐ない人生が、この車さえ取り戻せば変わるはずだ、という根拠の無い思い込みに突き動かされて、なりふりかまわず危険に身を晒していく。
奥さんは、車がなくても仕事がなくてもありのままのあなたを愛している、なんて言ってくれる大変理解のある人なのだが、その奥さんの言葉すらこの男の耳には入らない。
小心者のセールスマンが次第に狂気を帯びた孤高の闘士じみてくる。
最初は紳士然として現れる悪役のメドウズも、カミングズに追いつめられるうちに余裕を失い、愛人や手下にも逃げられ、それでも尊大さを失わない。
クライマックスは二人の対決になるのだが、二人はこの時点で二匹の手負いの獣のように互いによく似ている。

ギラーミンの演出はキビキビしていて、無駄がない。
クライマックスはイギリスの街が西部劇の舞台になったような錯覚を覚える。
音楽の使い方もかっこいい。
脇役一人一人にもスポットライトが当てられ、物語に重層的な厚みを与えている。
特に、物語の前半で重要な役割を果たす新聞売りの老人がいい。
ジョン・ギラーミン、30代半ばの佳作である。
スポンサーサイト
プロフィール

おがわさとし

Author:おがわさとし
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR