屍者の帝国

アニメーション映画版「屍者の帝国」を観た。

原作にあるエピソードをかなり丹念に映像化している。
映像だけ観るかぎり原作にかなり忠実であると言っても過言ではない。
正直言ってここまでちゃんと映像化していると思わなかった。
力業である。

では全体として原作に忠実な映画化であるかと言うとそういうわけではない。
原作のかなりのボリュームは会話で占められている。
その会話の中に盛られている膨大な情報、論理、思索が原作の一つの読みどころになっている。
映画はそこをばっさり切っている。
9割5分くらいは切られていると言っていい。
したがって会話の中にしか出てこないものは基本的に出てこない。
三原則もアララトもスペクターも菌株も出てこない。
それを補う形でワトソンとフライデーの関係やヴィクターの手記やザ・ワンやハダリーの設定が改変され、物語は別物と言っていいものになっている。
いわば外観をそのままにして中身をそっくり入れ替えたという形だ。
それはアクロバティックですらある。

原作のファンは気に入らないかもしれない。
実際、映画のストーリーは分かりやすくはあるがベタといえばベタだ。
しかしその代わりとてもエモーショナルな映画になっている。
僕はこれはこれでありだと思った。
そもそも原作はそのままでは2時間かそこらの映画にはなりようがない。
なんとか刈り込んで2時間に収めたとして、面白い映画になるとは思えない。
こういう形で映像化した監督の蛮勇を買いたい。

元々伊藤計劃さんの書いたプロローグを伊藤さんの死後円城塔さんが引き継いだ時点で物語は別のものに変わっている。
物語を語り継ぐというのはそもそもそういうものである。
ではこの映画が原作のエッセンスを継いでいないのかというと案外そうでもない気がする。
正直に言うと僕が原作をきちんと理解しているかどうか極めて心もとないのだが、エンドクレジットに被って流れるフライデーの独白を聞いて、ああこれは確かに「屍者の帝国」だ、と思った。
その成り立ちを含めこの物語のはらむ魂の在り処への切実な問いかけはこの映画に確実に生きている、と思う。

個人的な感想をいくつか。
「吸血鬼ドラキュラ」関連の設定が完全になくなっているのはドラキュラ好きとしてはちょっと淋しかった。
その代わり映画にしか出てこないキャラクターにマニーペニーがいて、これは007好きとしてはうれしかった。
あと、僕はいい加減「カラマーゾフの兄弟」くらいは読むべき。
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