恋人たち

(前記事「裁かれるは善人のみ」の続き)
しかし、神の沈黙に怒るのは信仰のある者だけだ。
日本の僕らはそもそも神の存在を信じていない。

橋口亮輔監督久しぶりの新作「恋人たち」は神のいない国でそれぞれの不幸を抱える三人の男女を主人公にした作品だ。
三人の抱える不幸はそれぞれに事情も程度も違うが、それは神の不在というような次元になく、むしろある種の「間の悪さ」の結果であるように感じられる。
なにか人間を越えた大きな悪が関わっているのではなく、どこかで何かがずれてしまった結果主人公たちは居心地のいい居場所を失っている。

この映画にはタイトルが示唆するようなロマンチックなものはほとんどない。
僕らは映画や物語にロマンチックなものを期待する。
それがロマンチックであるかぎり、僕らは「心の傷」や「心の闇」だって大好きだ。
しかし目の前にいる人の「心の傷」や「心の闇」には本当は関わりたくない。
それは往々にしてくすんだ色をしてみすぼらしく嫌な匂いがする。
そしてそれに関わることはほとんど常に面倒くさい。
映画はそのダブルスタンダードに意識的だ。
主人公たちの抱える「心の傷」や「心の闇」はたいてい無視される。
映画はロマンチックではない不器用な主人公たちをただひたすら観察する。
僕らはカメラに合わせて観察を強いられる。
その観察の先に僕らはいつしかロマンチックではない不器用な主人公たちの等身大の痛みに一喜一憂している。

僕らの国には世界を創造した壮大な神はいない。
神様がいるとしたら、人生の小さな隙間にひっそりとその姿を隠している。
間の悪さが不幸を生んでも、どこかの隙間でひっそりと神様に会うことはあるかもしれない。
この映画のロマンチックなタイトルは最後に出る。
それまでにどこかの隙間で神様に出会えたらこの映画は成功なのだろうし、あるいはそれは映画を観た後の話なのかもしれない。
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