ワイルド わたしの中の獣

もう一本の「ワイルド わたしの中の獣」はよりストレートに現実の社会の中で満たされない欲望に身を委ねる女性を肯定的に描いている。主人公のアニアはアパレル系の職場で働く目立たない女性だ。そのアニアが公園で野生の狼と出会うことから野生を取り戻していく、と書いてしまうとなんだが通俗的な感じだが、この映画はその過程を現実と幻想を織り交ぜながら丹念に積み重ねていくところに面白みがある。

最初はスーパーで買った生肉を公園に置いてくることから始めて、少しずつ彼女は狼に深入りしていく。彼女は結局その狼を捕獲して自室に閉じ込めるのだが、その辺りから物語は現実なのか幻想なのか分からない感じになっていく。決定的に彼女と狼の関係性が変わるのは、彼女が覗き穴を開けて覗いていた部屋の壁を狼が体当りして倒してしまうところからだ。これは現実にはありえないだろう、いくら狼でもマンションの壁は壊せない。ここは「壁を壊す」ということの象徴的な意味が現実を凌駕しているのである。それまで狼に対してどこか人間として自分を上位に置いていたヒロインはここで自分の無力さを自覚する。その後彼女はダストシュートから逃げ出すのだが、その落ちていく感覚がここではまさに「人間を下りる」という表現になっている。そして事実ここから彼女と狼の関係は一変するのである。

彼女が勤める職場が人間が人間であることにとって重要な「衣服」を扱う職場であることには意味があるだろう。「衣服を脱ぐ」ということの象徴的な意味がそこにはある。(「シークレット・オブ・モンスター」でも主人公が反抗の意志を「裸」で表すところがある。)人間的な虚飾を剥ぎ取っていくことがエロスと結びついていく。

もちろん現実には人間はそうそう簡単に人間を下りることは出来ないし、この映画のラストもちょっと非現実的ではある。しかし、たまには人間をやめたい、と感じる人間がいるかぎり、この種のファンタジーはなくならないのだろう。ちなみにこの映画に登場する狼はすべて本物である。
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